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吼える月
第26章 接近
サクの背後に立っていたのは――、
赤い着物を着た、黒髪の少女。
それは――。
「おま、お前……っ!?」
「お馬鹿なサクちゃん久しぶり~。今のユエは【海吾】の一員として頑張るユウナちゃんから、伝言を預かりました。
"サク、早く会いたい"」
少女は最後をやけに感傷的に口にすると、褒めてと言わんばかりに、小さな身体を揺らす。
「どうやってここまで…」
「第一声がそれ~? せっかくユウナちゃんがそう言っているのに。オンナゴコロがわかってないなあ」
「チビがなにをほざく。大体信じられるわけねぇじゃねぇか。黒陵からの最終船に乗らずに、どうやって…いやそれはいい。あの【海吾】からここまで、チビがどうしてこれたよ!? 俺、テオンとここまで苦労してきたんだぞ!? あの男みてぇな女はどうした!?」
「ユエがここに来れたのは、サクちゃんより頭がよかったからで、あの子はユウナちゃんのところに置いてきた」
「あの子? お前より年上だろうが」
「ユエの方がお姉さん! サクちゃん、頭だけじゃなく目も悪い〜」
「悪いのはどっちだ。俺は馬鹿でもチビの頭には負けねぇ! ああ、俺は戯言に付き合ってる暇ねぇの! お前誰の船でここまで来た。渦は?」
「きゃはははは。ユエには力持ちのお友達がたあくさん。危険なお船じゃない方法で運んでくれたの」
「まさか、本物の空駆ける天馬……」
「そんなお馬さんはユエのお友達にはいないよ。もっと現実的なお友達。この前は災難だったね、きゃはははは~」
赤い着物を着た黒髪の少女は、眉を吊り上げさせてるサクに愛らしく笑って、ジウを見た。
「そこの、むっさいおじさんは青龍の力を使えるかもしれないけど…」
「む、むっさい、おじ…さん……うむむ」
ジウが嘆くように言い淀む。
「イタチちゃんと交信出来ない新米の玄武の武神将と、まだ青龍に認められていない新米の祠官が、あの凶暴な餓鬼相手になに出来るというの? どう海を渡れるの? サクちゃん、ユエのお手伝いが必要でしょう?」
すべてを既に見知る少女が取り出したのは、笛。
それは餓鬼を鎮める笛だ。
「だからね。ユエのお手伝いがうまく行ったら、サクちゃんにお願いがあるの」
そこに、有無を言わせないような強い思いを、サクは感じた――。