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吼える月
第26章 接近



◇◇◇



 神秘的な輝きを魅せる銀髪と、見え隠れする白い牙の耳飾りを揺らし、黒陵の姫の凜とした声が響く。

 
「我は玄武、汝らを救いに現れたり!!」



 ……白目を剥いて、棒読みの。

 美しい少女だけに、その狂的な豹変ぶりが、異様さの迫力を強めた。


「あわわ、お嬢が、お嬢が……」


 ユウナが、"襟巻き"の指示に従ってわざと引き起こした異変を、本当の怪奇現象だと思ってしまったイルヒは、いつも微笑んで優しいユウナの変わりように、青ざめた顔でガタガタ震え始める。


「な、なんであっちもこっちも、不気味なのが出てくるんだよ!! お嬢も外のみたいになっちゃうの!? あのお嬢がお嬢が、外にみたいのに…っ、うわああああん」


 ちょっと待て。


 ユウナは心の中で思う。

 おかしなことをしている自覚はあるが、あまりにも酷い言われようだ。ちょっと上を向いただけで、餓鬼になるようなことまで言われている。

 乙女心を傷つかせたユウナは、弁解をしようと白目を解こうとするが、

"ならぬ。芝居が出来ぬ姫は、白目になっておらぬと、目を泳がして周囲の者を見てしまうであろうに。そうなればすぐにシバやスンユに、看破されてしまうではないか"

 心に、首に巻き付くイタチの怒る声が響く。


"だけどイタ公ちゃん。あたしは一応女の子なのよ"

"わかっておる。この姿は、あの小僧には見せぬゆえに"

"お願いよ。絶対サクには黙っててね"

"ああ。姫が小僧に想いを伝える妨げにはならぬ"

"……もぅ、イタ公ちゃんったらそこまでわかるの?"

"我は神獣ゆえに"

"冗談もお上手。はぁ、しかし勝手に神獣の名前出してこんなことをして、玄武に怒られないかしら。玄武は厳格な面があるとお父様が言っていたのに"

"慈愛深き我が許可しているのだ、気にするな"

"まあ。ありがとう。イタ公ちゃんに、玄武のご加護がありますように"

"いや、我は…"

"うふふ。励ましてくれるのね"


 イタチとユウナの会話は堂々巡り。

 白目を剥きながら、時折口元を緩ませるユウナの姿がまた、周囲に異様さを見せつける。まさかその心の中で、襟巻きとこんなに穏やかな会話が繰り広げられているとは、誰も思ってもいない。
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