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吼える月
第26章 接近
 

"まあ、なんてことを!!"

"姫、その手のぷるぷるを抑えよ。黙しておれ"


「考えられない」


 シバは迷うことなく言い切った。


"きゃー。シバ格好いいわ"

"姫。これ、姫。その"ぽっ"はやめよ。小僧が怒るぞ"

"あら、あたしだけではなくサクだって、絶対シバを格好いいと思うわ。ああ、残念だわ。シバに生きた魚を殺す非情さがなければ、もっと格好よく思うのに"


 オトコゴコロがわからぬユウナの前で、ギルはさらに詰め寄った。


「なんでそうあの男を信用できる?」



 シバが、サクは裏切っていないと信じる理由――。



「それは、あの男が……」



"サクが?"

"小僧が?"



「馬鹿だからだ」



 シバが自信たっぷりに言い切った。



"あ……"

"う……"


 心の中で、ユウナもイタチも、否定も出来ずに黙り込む。


「自らの意志で、芝居なんて出来るふたりではない。感情よりまず身体が動くふたりだ。なによりあの男は、ユウナを道具になどしない。

それに、あの男から神獣の力を感じず、これがただの滑稽な芝居で玄武の名を騙って、ふたりが俺達をどうこうしようとしているのなら、俺がまず先にわかる」

 随分な自信だが、そのことはギルも承知らしく、押し黙る。

 ユウナが捨て身になって、どんなに必死に芝居をしていても、シバにとっての信用の決め手は、たとえ馬鹿であろうと……、ここにいないサクの存在だったということが、ユウナには面白くなく思った。


"もうやめてもいい?"

"ならぬ。警戒すべきはシバより、スン……"


 イタチが出した名の者が、訝しげな声を出した。


「さきほどから話題に出る"あの男"、とはどんな男だ? シバ、武神将だと言ってたな」


 それまで黙って成り行きを見守っていたスンユが、突如発した言葉に、ユウナは内心慌てた。

 スンユは神獣に敵意を抱いている。だから、イタチも警戒する男に知られまいと、それまでサクの存在を伏せていたのに、


――玄武と繋がる玄武の武神将が仕える姫だ。

――それでなくとも、祠官の姫が武神将とこの国に逃げ込んできたんだ。


 思いきり、身元が証明されてしまっている。

 今さらシバの言葉を否定出来ない。

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