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吼える月
第26章 接近
静かに放たれる殺気。
シバ程度の感知するだけの力なら見逃せても、
「もしや、玄武の……武神将か?」
神獣と契約する武神将であれば、見逃せないという…そこまでの頑なな敵意。
「最強の武神将、ハン=シェンウが来ているのか?」
勝手な思い違いで、その殺気は強くなる。
そこまでの敵意を疑問に思いながらも、ユウナは内心ほっとした。
内情に詳しい男だが、玄武の武神将が密やかに代替わりしたことは知られていないようだ。
「それは……」
それを正しく言い直そうとシバとが口を開いたのを知って、ユウナは慌てて叫んだ。
「我は玄武なるぞ!! ぐだぐだするのなら、我は汝らを見捨てるぞ!!」
イタチが言っていない言葉を、慌ててユウナが話したことにイタチは咎めなかったが、ユウナ自身から放たれた抑揚ある言葉は、空気をびりびりと震わす"玄武の怒り"のような効果を生み出し、危殆を孕んだ場を鎮めた。
「いいか、海には餓鬼と大砲だ。オレは子供達を生かすために、玄武に従う。お前らがそれに納得できないのなら、勝手にしろ」
そして、シバの言葉で強制終了。
彼は寡黙だと思っていたが、はっきりとした発言が出来る男らしい。
ユウナの中でさらに好感度が上がったのを感じたイタチが、揶揄するようにユウナに言う。
"ふふ、随分と好いたようだ。小僧には黙っておいてやる"
"え、なにを?"
"わからぬならよい。小僧…はよ戻れよ。姫がどうなるかわからないぞ?"
"?"
そう脅しながらも、武神将の帰りを切に願うイタチの心はユウナには伝わらず、そんなユウナの前では、"いっいっいっ"にて部屋の片隅まで退いてまだ震えていたイルヒを諭しにかかっていた。