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吼える月
第26章 接近
「これより、汝ら水となれ」
そう声を上げた後、ユウナは言葉の不協和音を感じ、再度確認のように反芻する。
「これより……水に? 水!? ええええええ!?」
その声で子供達からも、鸚鵡(おうむ)返しのような声があがる。
「水に? ええええええ!?」
奇妙な連帯感の中、シバだけが、イタチの尻尾をぎゅうぎゅうひっぱるユウナを……、驚きのあまりに白目を解除して、しっかりとした顔つきで驚いているユウナを、推し量るように怜悧な目を細めて見ていた。
"姫、皆を煽ってどうするのだ。はよ、こう言うのだ。餓鬼の…"
「餓鬼の食らうのは物体。液状と見做したものは目もくれぬ。ここは円状に囲われている。あの大勢が砦を食らうのは時間の問題だ。そして餌がなくなれば、食える餌を食らいに行くだろう」
"それは……"
"そうだ。つまり……"
「つまり、大砲が設置されている船に。そうした餓鬼に砲筒が向かわれれば、あわよくば餓鬼を放ったものと餓鬼が戦闘となり、我ら目がけて砲弾は届かぬ。乗っている者に力があったとしても、船なくば海に転落する。自滅させるために、餓鬼に砦を食わせるのだ」
"イタ公ちゃん、理屈はわかるけど……"
「無理だよ、お嬢!!」
イルヒが飛び出してきて、ユウナの袖を引く。
「あ、お嬢白目じゃない、元に戻ったの!?」
「はっ!! わ、我は玄武なり。な、なんだ……?」
慌てて白目を剥いて、噛みながら少し威張った口調でイルヒに答えながらも、こめかみからは焦りのための汗が一滴頬に伝い落ちた。
また不気味な顔に戻ったのを見て、イルヒは残念そうに口を尖らせて尋ねる。
「お嬢が玄武になれても、玄武がお嬢になれても、あたい達は水になれないよ。大体人間が、どうやって水になれるというのさ!! それが出来ないことだって、子供のあたい達だってわかることだよ!?」
まともな意見に、ユウナは内心そうだそうだと頷きたい心境だ。