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吼える月
第26章 接近
少し前に、ユウナを通してイタチの奇声を聞いていた者達は、本家本元の不気味な表情があまりに強烈に奇怪すぎて、それが逆に自分達とは違う非常識な世界に住まう…玄武の存在を強く印象づけられた。
そう、今のイタチは、イタチ姿を今まで見れなかった者達にとって、ユウナの胸元にいた小亀が突然見せた姿であり、そしてさらには喋って、おかしな笑いを見せる…なんとも奇妙すぎる、それゆえに畏怖すべきものだった。
イタチが力無き者にもイタチとして見られている理由――。
それは声を出すために、イタチが力を使ったからであり、よく見るとその白いふさふさに青みがかっている。
発光するほどの力の使用は、今までイタチは小さな身体に負担がかかると忌避していたのだが、ここで神獣の威信にかけてと力を使用すれば、力ある者にしかイタチに見られないという…サクの力不足な部分が補われ、本来の……誰にでも見れる姿になったのだ。
自分は今まで亀に見られていたとは、無論気づかぬイタチは、驚愕に見開く多くの目を見て、己の神々しさに圧倒されたのだと、満足そうに笑みを浮かべた。
「では行くぞ、姫。我らは水だ」
石のように凝固していたユウナは、イタチの声に融解していく。
心に聞こえていた声を聴覚として捉える限り、老人のような嗄れたものはなく、空気を震撼して伝えるような声は繊細さを伝えながらも、どこか囁かれているような艶を感じたユウナは、サクの睦言にも似たものを感じ取り、少しばかり赤くなり俯いた。
「姫!!」
そこを持ち上げたままのイタチが、小さな片手を振りながら、少しばかり硬い声で叱咤すると、ユウナははっと表情を戻した。
目の前にはサクはいない。
くりくりと可愛らしく黒い瞳を動かし、でろりと体を長く伸ばして自分に持ち上げられている、やや青白いイタチがいるだけだ。