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吼える月
第26章 接近
"水を想起せよ"
心の中の声の方が、耳で聞こえるよりも年配で厳しさを感じる。
"無理よ、水になど…"
"やってみぬのに、出来ぬと申すな。我がいるのだ、安心せよ!!"
"わ、わかったわ……。水……"
ユウナは水を考える。
水――。
姿を一定せず、身体に残らないものだが、水は豪雨のように勢いつくと身体に突き刺さるような痛みを植え付け、肌を赤くさせ痕跡を残す。
また、水がなければ人間は生きられない。飲む、洗う、流す……、様々な使われ方をしながら、人間の生活の中心となっている。
存在感がある透明さ――それが水だとユウナは思った。
見えない色を持つのに、身近にある存在なのだと。
姿が消えても、残る存在感……、ユウナは一瞬、ハンを思い浮かべたが、やがてそれを上書きするように強烈に現れたのは、サクだった。
――うるせぇです、姫様。俺は護衛なんですから、姫様はおとなしく守られてくれればいいんです!!
いつもいつも傍にいて、いつもいつも守ってくれて。時に怒り、時に泣き、時に笑って自分と共にあろうとしてくれた。
――姫様が……好きです。
……愛してくれた。
サクの表情は色々あって、ひとえにサクだと表現できない。掴み所がなくてひとに流されるようでいて、気づけばこちらの方が流されている……そんなサク。
サクは、自分になくてはならない…、水のような存在だと、ユウナは強く思った。サクこそが、自分を生かす水なのだと。