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吼える月
第26章 接近
"ほぅ、姫は…我が武神将を水と思うか。この水の神獣の特性を引き継いでいるように思えるのか"
そのイタチの声は、サクを想起させるユウナの心には届かないものだったが、まるで自身が褒められたかのように嬉しそうだった。
「では姫。姫が思う水とひとつになることを考えよ」
「っ!!???!?!???」
「そちらではない。そちらは戻ってから致せ」
「い、いや、あ、の……その……」
"そちら"……肉体的な合体を想像したユウナに、呆れ混じれのイタチの声が飛ぶ。恥ずかしい勘違いをしてしまったとユウナは真っ赤になって両手の人差し指を突き合う。
「身近に感じよ。姫は水である。水は姫である……」
あたしはサク――。
サクはあたし――。
リュカに裏切られたあの日、共に傷を負った。
リュカに追われ、そして餓鬼まで現れて。
いつも、いつの時も、サクと一緒だった。
小さい頃から、両耳に白い牙をぶら下げて、自分の後を泣きながら追いかけてきた、最強の武神将の息子。
ずっとずっと一緒にいたいと思ったその存在を、自分のように強く感じると、涙が出てくる。
今さらながら、愛おしさが込み上げてくるのだ。
自分の心に向き合えば、もっと早く結論が出ていたはずなのに。
あの時、夫にリュカを選ばなかったはずなのに。
あたしは、夫以上にサクを求めていた――。
ぽろぽろと涙を流すユウナに、周囲はざわめく。
傍で見ていたシバが、イタチとの会話を耳にして、傷ついたような顔をしたことに、シバ自身気づくことなく。ただ……後方にいるスンユと、真横にいるイルヒだけが、そんなシバをじっと見つめていた。