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吼える月
第26章 接近
皆が見つめる中、目を閉じて水というサクを想起するユウナは、涙を零しながらも美しく微笑んだ。
それは――、
すべての罪を包み込む、慈愛深き母のように。
銀色の輝ける美姫が恋を自覚した時、それまでの少女の殻を壊して、愛を知る大人の女に変貌した――そんな姿だった。
サクを想って美しくなるユウナを、子供達は皆、その姿に惹き付けられて身じろぎすら出来ず、
ギルは呆けたように、スンユはユウナの吸引力に対抗するように目をそらし、ただシバだけが眉間に皺を寄せたように射るような目を寄越す。
そんな皆々の反応を知らずにいるユウナは、サクが愛おしい……、その心に支配され、恍惚感に浸っていた。
――姫様。
サクと一緒にいたい。
どこまでも一緒に。
――……俺、姫様が好きです。嫁にしたい気持ちは、変わっていません。昔からずっと……。
あたしも、サクと同じ未来を生きてみたい。昔から未来までずっと……。
ユウナの中で、サクと笑い合いながら手を繋ぎ、共に生きる未来を強く望んだ時。共に望む願いがひとつに合わさった時――。
「よし、それでよい」
イタチの望む水の想起が強く深く、できあがった。
「では行くぞ、姫」
「……ええ」
自分はサクと共にある。
サクは自分である。
だから怖くない。
あの海の中に行っても、あたしはひとりじゃないのだから。
あたしには、サクがいる。
皆が息を飲んで見守る中、しっかりとした落ち着いた顔つきになったユウナは、イタチがよく見えるようにと、サクと同じように頭の上に乗せて静かに動き出す。
広く海を見渡すことができるこの場所は、"入り口"と言われる…ユウナがサクと共に目隠しをして歩いたあの道から少しそれた高台にあった。
海面の動きによって作られた鍾乳洞は、不自然な位置に足場が出来、歩くのもままならないのだが、そうした部分が海の見張りにも役立っていた。
誰もが、動き出したユウナは正規に……船着き場に直行する大きな道を歩むものだと思っていたが、
「あたしは水。なにも怖くない」
高台から、そのまま海に飛び込んだのだった。