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吼える月
第26章 接近
シバの手が背中にある青龍刀の柄を握り、鋭さを増したその双眸は近寄る餓鬼に殺気を飛ばす。
決してユウナだけは傷つけさせないという決意の表れかのように、ユウナを片手で抱きしめるシバは、奇怪な連中達との戦闘を決心し、自らの命が散るのを覚悟した。
ユウナを抱きしめるその手に力を込め、黒陵を滅ぼしたというその奇怪な者達を見据える。戦意を宿したその瞳は、冴え冴えしい光を灯した刃のようにさらなる鋭利さを見せた。
餓鬼が射程距離に入る。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
シバが青龍刀を振り下ろそうとした時、
「シバ、やめよ」
イタチの声に、反射的にシバの手がぴたりと止まった。
「このまま食われろというのか!!」
間近に近づいた、裂けた口を持つ餓鬼達。
その穢れた存在に吐き気がしてきそうで、ユウナは思わずシバにしがみついた。シバはさらにユウナを、自分の方にぐっと引き寄せる。
「オレは、ユウナを死なせるわけにはいかないんだ……」
たとえ、オレが死んだとしても……。
その呟きを聞き取ったユウナが、はっと顔を上げるのと、シバが動かない手を訝しむのと、イタチが声を上げるのが同時だった。
「汝らは水、汝らは海!! 透き通る水こそがすべて!!」
「くっ、手が動かな……」
「汝ら、我が水なり!!」
そう喝破した途端――
「えええええ!?」
凄絶な表情で襲いかかってきた餓鬼が、ユウナとシバ、そしてイタチの身体をすり抜けたのだった。