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吼える月
第26章 接近
 


 手応えを覚えない餓鬼達が、餌を捕まえようと躍起になるが、どれもすり抜けてしまう。


 ふたりは、夥(おびただ)しい数の餓鬼達からは、見えるのに掴めぬ――そんな存在になった。


「ひっ……、なんだか、餓鬼が……気持ち悪いものが通り過ぎていくのが、無性に居たたまれないというか、怖いというか……」


 ユウナが固まったままで、目だけで身体をすり抜ける者達を追う。


「姫。それこそが水。水は汚濁を喜んで受け入れているわけではあらぬ」

「こ、これから……お水を綺麗にしたいと思います……」

「よき心がけだ」


 イタチに褒められているユウナの横で、シバは妙な既視感を覚えていた。

 そしてこれらの現象は、落下している時に掴めなかったユウナの手と、同じだということに気づく。あの時は掴めなかったのに、今はしっかりと触れられることに疑問を持ったシバは、怜悧な目を細めた。


「一体これは……」


「水は形がない。だが形がないはずの水同士は、互いにその存在を認め、嵩(かさ)をます。これは道理」


 驚くシバにイタチが説明する。


「人間の身体がなぜ……」


「シバ。人間とは可能性を持つ者。我らの力を操れる者達が、姿を変えることのなにが難しいか」

「……っ」


「いや、それは単純に難しいと思うけど」


 ユウナのつぶやきを無視してイタチが続ける。


「玄武の我も、小僧が作った姿である。我の好きなふさふさに」

「あいつが神獣を……」


「本当イタ公ちゃん、冗談お上手」


 ユウナのつぶやきを無視したのは、今度はシバだった。
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