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吼える月
第26章 接近
「オレの全身に、何か熱いものがぐるぐる回っている。このよくわからないこの感覚が、あいつが海で放った力と同じものなのか? これのおかげで姿を変えられているのか?」
「四神獣の力は似て非なり。小僧の力は我の力にて、青龍のものとはまた違う。今、お前の身体に我の力にて巡らせておる力は、まだ発現してはおらぬ。姿の透過は我のもの。我は水の如く馴染ませ、青龍は大地の如く包み込むことを得意とする特性がある。
どれどれ、もうよいか。青龍の気が体内で巡り、よく練られているようだ。しかし小僧より、容易く応ずるその身体、青龍が羨ましいわ……」
そうぼやきながら、
「では、シバ。体内の熱を放流させることを想起せよ」
「……放流……」
イタチの言葉に、戸惑ったように瞳を揺らした。
「ほほう、小僧のように感情が豊かではないシバは、馴染みのない感覚の想起が不得手と見える。その点では小僧は、直感にて初見でこなす」
イタチの挑発的な言葉に、シバの目に戦意が宿る。
「放流を思えばいいんだろう!?」
ユウナは笑いを堪えた。
相変わらず過ぎゆく餓鬼は気持ちいいものではなかったけれど、シバがサクに対抗して子供のようにムキになっているのを見れば、笑いたくなる。その束の間の和やかさが餓鬼の不安を上書きした。
サクとシバ――。
反発するくせに律儀に迎合して、その力を認め合っているからこそ、自分は今、安心してシバの腕の中にいるのだろうと、ユウナは思う。
神獣の力で、いいにつけ悪いにつけ"気になる存在"となってしまったふたり。共に倭陵一、二を争う武神将の息子。親同士が仲良かったように、子供同士もなにか通ずるものはあるはずだ。
たとえ、育った環境が違うとしても。
サクには、相手が男だろうが女だろうが、大人だろうが子供だろうが、光に穢れていようがいまいが、そこを問題視する男ではない。
率直に、その人間の本質を見抜く。