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吼える月
第26章 接近
――なぁ、姫さん。うちの馬鹿息子は、馬鹿で馬鹿でどうしようもねぇけど、ひとを見る目はある。だからもし誰も信じられなくなったら、サクと、サクが信じる者を信じれよ。
笑いながらも真顔で言ったハンの言葉が思い出される。
だからこそ――。
「頑張ってね」
笑顔で応援すると、シバの涼やかな顔が不愉快そうに歪められ、眉間にくっきりと皺まで刻まれた。そして思いきり睥睨された挙げ句、反対を向かれてしまった。
自分はまだ、サクのようには好意を向けて貰えていないらしいと、嘆きのため息をつく横では、背を向け目を瞑ったシバの想起が始まっていた。
サクに負けたくない一心で、放流する様を心で思い描くが、現実に喚起出来るほどの感覚が掴めないらしい。
「……は…ぁ…」
「やはり勝手が違うか。我の助言が必要か」
うまく出来ないらしいシバに見兼ねて、イタチがシバの頭の上から、ぬぅっと顔を降ろして、黒い瞳をくりくり動かしながら助け船を出す。
「いらない。オレひとりで……」
拒絶に身体を揺らすと、イタチは振り落とされないようにシバの髪を掴む。シバの顔を覗き込むような体勢のままでぶらりぶらりと揺れつつ、ピクピクと小さな耳を動かし、その愛らしい顔でじっとシバを見つめ続ける。
「時間をかけすぎれば、我が武神将がおらぬ我の力がもたぬ。ならば急げ」
「………」
「はよ」
「………」
「はよ、はよ!!」
「………」
「はよ、はよ、はよ!!」
「うるさいな。助言があるのなら、さっさと聞かせろ」
イタチの急かしに、シバは怒鳴った。