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吼える月
第26章 接近

 

「なんだ、聞きたかったのなら素直にそう言えばよきものを。よし。では……」


 真剣に聞き入ろうとするシバに、イタチは体勢を元に戻し、頭上から得意げに言った。






「焦らされた末の射精を思い描け」



 引き攣った顔をしたまま、シバの体が固まった。



「はよ」

「……。オレの耳がおかしくなったか? 神獣玄武が……」

「焦らされて焦らされたあかつきの射精は、得も知れぬ気持ちよさと爽快感があると、我の武神将達は皆口を揃えて言う。我はひとの身ではあらぬが、我が武神将達が揃って言うのだから間違いはない」

「………」


「ねぇ、シバ」


 絶句しているシバに、追い打ちのようにユウナが聞く。



「射精ってなあに?」



 ……純粋な笑顔で。



「そんなに気持ちいいものって、どんなものなの? 私も気持ちよくなれるものなの? ねぇ、シ……」



「おい」


 シバはユウナを見た。少し潤みながらも、憎々しげな目だ。


「黒陵の玄武も武神将も、代々卑猥な輩なのか!?」

「え?」


 ユウナは意味がわからず、きょとんとした。

 そのユウナの頭上に飛び跳ねて移動したイタチも、きょとんとした顔を向ける。


「――ああっ、くそっ! 卑猥な黒陵のせいで、この神獣までもが卑猥なモノに見えてくるじゃないか!!」


「え? イタ公ちゃんのどこが卑猥なの? こんなに綺麗なふさふさな毛並みなのに。触って見たら? 暖かくてぴくぴくするのよ」

「お前は黙れ!!」

「姫の言う通りだ!! 我は神聖なる神獣。卑猥などは……」



「もういい!! 黒陵なんて頼らない!! オレひとりでなんとかする!!」
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