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吼える月
第26章 接近

 
「ねぇ、イタ公ちゃん、シバがなんか涙目でいじけちゃってるんだけれど、なんでなのか理由わかる?」

「はて? なぜ我が卑猥なのだ? 姫は我が卑猥に思うか」

「いいえ? というか、卑猥というものがどんなものかわからないわ。ねぇ、シバ。卑猥なモノってどんな……」



 ぶわっ。


 その時、シバの身体から暴風のような衝撃波が放たれ、餓鬼ごと、周囲の水が凄まじい勢いで退いたが、また戻ってくる。



「まあ、すごいわ!! サクみたいに水が動いたわ!」

「おお、それだ。その感じだ!! そうか、ようやく射精の想起が……」


「これは、怒りだ!!」


「なぜ怒る?」

「そうよ、なんで?」



 ぶわっ!!


 それは先よりも強い衝撃波。
 

 無自覚にてユウナとイタチがシバに植え付けたものが、彼の忍耐の許容量を超え、彼の羞恥が怒りとなって、体内に渦巻くものと共に、爆ぜたように体外に放出されたのだった。


 色のない衝撃波が、深い青の色に変わっていく。

 それはシバ自身から放たれている光。


 藍にも似た、深海の青――。


 それはサクが放つ光の色よりも、ずっしりと重みのあるものだった。


「よし、次に姫」


 安定していたユウナの熱の温度が、上昇する。

 そして熱を吐き出すかのように、ユウナの身体から水色の光が放出され、同時にイタチも発光する。



「ではとくと見よ。我と青龍でなす、浄化の壁を」


 イタチの声と共に、三人の光がひとつになる。

 ユウナの頭上で、雨乞いのように両手を上に上げて、凄まじい力量の力を制御しているのは、弱々しいイタチ。


 そして――。


「汝ら守る、強固の水とならん!!」


 イタとの声と共に、ふたりの足元を抉るようにして、なにかが遙か遠い向こうまで一直線に走り、ふたりの足元の水が轟音をたてて左右に割れた。

 ふたりは、水がなくなることで現れた…漆黒の深淵を足元にして、宙に浮いたまま。

 そして奥行きをもって弾かれた左右の波は、勢い良く天に伸び、ふたりの頭上より遙かに高いところで繋がり、ふたりを海原の中、円穹状に包み込むものとなった。

 それは、今までふたりの身体に触れられずに、密集するように集まっていた餓鬼共を消滅させる壁となる。

 多くの餓鬼が消えて行く様を、ユウナは内から見ていた。


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