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吼える月
第26章 接近
薄い青に、深い青が入り乱れる水の壁――。
各々が透き通る同系色でありながら、どちらの色に染まりきることなく。それどころか反対に位置する補色のように、互いがまったく違う色なのだと、それぞれが対等の存在を主張する。
質の違う水の競演は、神々しい煌めきを放ちながらも、気を抜けば見る者の魂ごと吸い寄せるような、幻惑的な妖しさがあった。
引き寄せられるのは、不浄のものも同じ。消える仲間達を見ながらも、それでも大勢がこの水の壁に惹き付けられ、その内にいる自分達を食らおうと貪欲さを見せて凄まじい形相を見せるのに、その志を遂げずしてこうして消えゆく餓鬼達は、一体なにを考えているのだろうかとユウナは思ってしまう。
怒りか。
悲哀か。
食欲か。
それとも、虚無か。
黒陵の兵は餓鬼に食われ、己自身も餓鬼となり仲間を襲った。食われる恐怖の連鎖が、餓鬼を創出していく。
この大量の餓鬼達は、生前、もしかしたら見知っていた黒陵の民かもしれない。そう思えば、民を捨てて神獣の力に守られている自分に、なんだか凄く嫌気がさした。
民と自分と、どこに違いがある?
それは、生まれつきの身分だけだ。
ただそれだけで守られる側になっているのが、心が痛かった。
サクのように、神獣の力も持っていない自分。今体内から放出されている熱は、イタチによって引き出されたサクの力だ。自分に特別ななにかがあるわけではない。
今までのことを思っても、サクがいなければ今頃この餓鬼の仲間となって、誰かを食らおうとしていたのかもしれない。こうして水の壁の向こう側で、神獣の力に消されていたかも知れない存在だったかもしれないのだ。
今、黒陵が事実上滅び、さらに姫と名乗る女を周囲が是としているというのなら、今の自分はただの没落した、なんの肩書きもない小娘にしか過ぎないのだ。
神獣の力の内外にてこうして餓鬼と相対している今、餓鬼と自分との違いは、なにもないのだ。