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吼える月
第26章 接近
 

「この砲弾は普通ではない。なにか呪詛めいた特殊性を感じる。我の力に触れることで、勢いを増して砦に向かったのだ」


 "砦"


 つまり、ギルが率いる大勢の子供達がいる場所へと。



「なんですって!?」

「なんだと!?」


 ユウナと共にシバも驚愕し、それにより、餓鬼が犇めき続ける水の壁が、形状を維持出来ずに崩れそうになる。


「シバ、集中を乱すではないっ!! また来たぞっ!! 今度は放たれた方角が違うっ!! 集中せよ!!」


 砲弾が水の壁に衝突した際、それを吸収して耐久する水の壁がぶるぶると震えているのをユウナは見た。そして、大きい砲弾が動かなくなると、それを食おうと餓鬼達が飛びついているのが見えた。


「よし、動きを止めた。このまま砦と反対側に反らすように想起せよ!!」


 だが――。



 ドッガーン!!



 再び、硬いものを崩す衝撃音がした。


「また砦に!?」

「なんでだ? なんであの砲弾、思ったのと反対側に行くんだ? なんで急に勢い良く動き出すんだ!?」


 シバは慣れぬ力の操作に、疲れ切った声を出す。


「これは……。我らが砲弾をかぶらねば、砲弾は我の力によって砦への攻撃を強める。なんだこの…砲弾を操る"力"は!」


 ユウナは下衣の服地をぎゅっと手で握りしめた。


 彼女の直感が、ゲイという異質な存在の登場を強く思い起こさせていた。

 まっすぐ砦に向かわずに、こちらを利用するそのやり方は、まるでいたぶっているような…あの男の「遊び」に思えてやまないのだ。


 その横にリュカが傅(かしず)いてでもいるのだろうか。


 ゲイという金色の男の残虐さと、秘める力の大きさは既に見知っている。だとすれば余計、神獣の加護のない砦に居る者達が危険だ。

 イタチとシバの集中力を乱さぬためにも、ここは分散していない方がいい…、そう思いユウナは、目に強い光を宿した。


「イタ公ちゃん、あたし【海吾】の皆をここに連れてくる」


 ようやく、自分が出来ることを見つけられたユウナは、微かに嬉しそうな笑みを顔に浮かべる。そこには恐怖などみられなかった。

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