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吼える月
第26章 接近
 


 真っ先に反応したのはイルヒだった。

 頭を抱えて伏せていたのだが、飛び上がるようにして立ち上がり、嬉々として海を見つめる。


「お嬢、お嬢どこ!?」


 しかしそこにはユウナはおらず。餓鬼が犇めく盛上がった一直線上の海があるばかり。


「ユウナがこの海でいるはずはないだろう? イルヒ、この海の状態は明らかに普通ではない。この状態の中にユウナもシバも……」


「イルヒ~、聞こえてる!?」


 再びユウナ声がして、イルヒは戸惑った顔でギルを見た。



「これは幻聴だ」



「ちょっと、聞こえてるなら返事してよ!! そこが危ないの、こっちに来て欲しいのよっ!!」



「ありえねぇだろ、イルヒ、皆。この異常すぎる海の中に来いなど、魔の囁きだ。海に住む魔物の声だ」


「ねぇってば!!」



 ギルの声と海から聞こえるユウナの声。

 イルヒも他の子供達も、声がするたびにそれぞれギルと海を見ながら、どうすればいいのかわからない。海からの声はあまりにもユウナの声にそっくりだったからだ。これを魔としてしまうのは惜しい。だがだからこそ魔かもしれない。


 ドッガーン!!


 砦が揺れる。

 砦が崩れていく。



「くそっ、どこでこいつらを守ればいいんだよ!?」


 崩壊する砦の中か。

 ユウナとシバを食らっただろう餓鬼が溢れる海か。



 ドッガーン!!



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