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吼える月
第26章 接近
「兄貴、兄貴っ!!」
ひとりの少年が後ろを見ながら、悲鳴を上げた。
「奥から誰かが来るよ――っ!!」
奥の暗がりから、のろのろと歩く小さな身体の影があった。
最初誰もが、砲弾の震動によって向こうに転がってしまった子供がこちらに歩いてきているのだと思った。
ひたひた、ひたひた。
歩く度に、血痕が地面に刻まれる。
下から順に、外光があたる。
餓死寸前の様な異様に細い足。異常に膨らんだ腹。
その身体は、真っ赤な血に染まっていた。
ごくりと唾を飲み込む観衆の前、次第にその顔が露わになる。
それは――。
顔と言うにはあまりには醜悪な、陥没と欠損で出来た肉の塊。
そこに斜めに裂けた口らしきものをぱくぱくさせながら、やがて獲物が沢山いることを知り、その場で飛び跳ねた。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
餓鬼だった。
餓鬼が砲弾に乗って塔にぶつかり、被弾した血だらけの姿で、この砦の中に侵入したのだった。
……新鮮な、柔らかな肉を持つ餌を食らうために。