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吼える月
第26章 接近
ギルが手にした刀を振り上げ、餓鬼の首を刎ねた。
だが身体はまだ動きを止めず、ギルの足に爪をたてる。ギルは顔を顰めてさらに首のない身体を縦に切り落とすと、左右に分かれて倒れながらもその四肢はゆっくりと動いていた。
「きゃああああああ」
子供の悲鳴に振り返ったギルは、頭だけになった餓鬼が、飛び跳ねて近くの子供の首に噛みついていたのを見た。
「とりゃああああ」
さらに豪快に刀を薙いで頭部を上下に切り落としたが、左右に落ちた肉片に刺さる牙のような鋭い歯がまだ動いている。
生命力は強靱だが、切り落としたものの殺気が薄れるのを感じ取ったギルは、自らの服の裾を破り、食いつかれた子供の止血をする。
「兄貴、兄貴っ!! まだいる、まだいるよっ!!」
砦に侵入した餓鬼は、一体だけではなかった。
最初のもの同様、血まみれになり四肢のどれかを欠損していても、それでも引き摺るような動きをやめない…"食"のためだけに生き続ける屍。
人型でありながら欠損だらけのそれは、10体近く――。
奥からゆっくりと姿を現わし、揺れるように歩いてきたのだった。
子供達は、輪郭を崩した餓鬼を初めて"間近"に見て、あまりの恐怖に大声を上げて泣き出す。ひとりが泣き出せば連鎖反応のように、他の子供が堰を切ったように泣き出してしまう。
ユウナとシバを失った悲しみで泣いていたイルヒですら、恐怖で心を占められ、混乱の最中にあり、泣いたり笑ったりを繰り返していた。
その中で取り乱さないのは、刀を振り回して餓鬼を追い払おうとするギルと、壁に背を凭れさせながら、腕組みをして冷ややかに状況を見守っているスンユのふたりだけだった。