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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 
 

 道という道は餓鬼に埋められ、迂回を余儀なくされる。

 切っても死なないという父の言う通り、上下を切られて上半身になってもまだ、体を引き摺るようにして動く餓鬼の姿もあった。

 脳漿を飛び出して歩く餓鬼もいる。


 これらの無残な姿は、きっと警備兵が格闘した結果なのだろう。

 彼らは忠実に屋敷を守ろうとして、餓鬼の餌になった――。


 込み上げる怒りにまかせて、餓鬼を片っ端から殴り倒したい気分ではあったけれど、ユウナを抱く今、そんなことをしてはいられない。


 少しでも早く、ユウナを安全な場所へ。


 ゲイもリュカも追ってくる様子もないのなら、今こそが逃亡の好機なのだ。


 餓鬼の数が多すぎる。


 外から玄武殿の中に誘われるように、入ってきているような気がする。


 そして見えた正門は――。


「――くっ!!」



 餓鬼で犇めく……禍々しさの坩堝になっていた。


 正門以外は高壁を越えるしかない。

 山賊を討ち取ったその功績に官人となった時、警備体制の強化が必要だと、自分とリュカが提言した通り、もうその高さは人が上れるものではない。


 餓鬼が壁に食らいついてはいるが、抜け出せるほどの大きな穴にはなっておらず、走りながら突破しなければ、ここいらの餓鬼の数を思えば、容易く取り囲まれてしまう。


 いざとなれば、自分が生き餌になる覚悟は出来ている。

 だが問題はその後ユウナが自分を残して逃げてくれるか、だ。


 そこにいまいち自信が持てないため、それだけは最後の選択にしたいと思っていた。


 どうする?

 どうやってここから出る?



 リュカ達が追ってこない理由がわかった。

 出られないと踏んでいるのだ。


 もしかして、あのゲイという男の仕業で餓鬼が出現しているのかもしれない。だから正門にあれだけの餓鬼がいる……。


「どうするの……?」


 ユウナの心配そうな声。


「……ここは……」





「サク!! 姫っ!!」




 突如声がしたのは、シュウだった。

 全身傷だらけで、惨い有様だった。

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