この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
道という道は餓鬼に埋められ、迂回を余儀なくされる。
切っても死なないという父の言う通り、上下を切られて上半身になってもまだ、体を引き摺るようにして動く餓鬼の姿もあった。
脳漿を飛び出して歩く餓鬼もいる。
これらの無残な姿は、きっと警備兵が格闘した結果なのだろう。
彼らは忠実に屋敷を守ろうとして、餓鬼の餌になった――。
込み上げる怒りにまかせて、餓鬼を片っ端から殴り倒したい気分ではあったけれど、ユウナを抱く今、そんなことをしてはいられない。
少しでも早く、ユウナを安全な場所へ。
ゲイもリュカも追ってくる様子もないのなら、今こそが逃亡の好機なのだ。
餓鬼の数が多すぎる。
外から玄武殿の中に誘われるように、入ってきているような気がする。
そして見えた正門は――。
「――くっ!!」
餓鬼で犇めく……禍々しさの坩堝になっていた。
正門以外は高壁を越えるしかない。
山賊を討ち取ったその功績に官人となった時、警備体制の強化が必要だと、自分とリュカが提言した通り、もうその高さは人が上れるものではない。
餓鬼が壁に食らいついてはいるが、抜け出せるほどの大きな穴にはなっておらず、走りながら突破しなければ、ここいらの餓鬼の数を思えば、容易く取り囲まれてしまう。
いざとなれば、自分が生き餌になる覚悟は出来ている。
だが問題はその後ユウナが自分を残して逃げてくれるか、だ。
そこにいまいち自信が持てないため、それだけは最後の選択にしたいと思っていた。
どうする?
どうやってここから出る?
リュカ達が追ってこない理由がわかった。
出られないと踏んでいるのだ。
もしかして、あのゲイという男の仕業で餓鬼が出現しているのかもしれない。だから正門にあれだけの餓鬼がいる……。
「どうするの……?」
ユウナの心配そうな声。
「……ここは……」
「サク!! 姫っ!!」
突如声がしたのは、シュウだった。
全身傷だらけで、惨い有様だった。