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吼える月
第26章 接近


「きぇぇぇぇっ!!」


 餓鬼は、獲物を射程距離に入れると突如運動能力を高める。


「お前ら、下がってろ!!」


 最初の一体とは比べ物にならない迅速さを見せる餓鬼。それは顔に部位がついているだけ、獲物との距離感を掴めるのか。


 ギルの刀が旋回する。


 だが――。



 ドッガーン!!


 放たれる砲弾により揺れる足場の中、大勢の子供を護りながら、数を増やして襲いかかってくる餓鬼すべてをなんとかできるほど、ギルには技量はなかった。なにより餓鬼は斬っても一度では死なず、切り口によっては肉の残骸のような姿になっても、新たな一体となって、とって食おうと襲いかかってくるのだ。




 ドッガーン!!




「うぎゃあああああ!!」


 ギルが跳躍力のある餓鬼に手こずっている間に、別の餓鬼が子供を襲った。肉を引き千切られた子供が痛哭する。


「ヨウ!! 今助けてやるっ!! ええい、こいつ……うぎゃああああ!!」

「きぇぇぇぇっ!!」


 餓鬼を引き離そうと手を伸ばそうとした子供の腕に気づき、餌の対象を変えた餓鬼はその腕に噛みつき、鋭い歯で肉を抉り歓喜の奇声を上げた。


 迸(ほとばし)る血に塗れた惨劇。

 耳をつんざくような悲鳴。


「子供達に触るな――っ!!」


 自らも噛みつかれ血まみれになりながら、怒りの形相で闘うギルは、宙に大きく旋回させた刀で子供を襲う餓鬼を叩き斬る。…何度も、何度も。


 怒りにまかせて細切りにしても、



「兄貴、また来た――っ!!」



 砲弾によって運ばれる餓鬼は、また現れる。
 
 

 餓鬼は……、スンユには目もくれようとしていなかった。そして彼自身、異質な存在から眼中外扱いされていることに驚きもせず、ゆっくりと外を見る。……ユウナが叫び続けている外を。



「ねぇ、なにが起こっているの!? なんの悲鳴なの!? ギル、イルヒ、スンユ!! ねぇ、どうしたの――っ!?」


 その声は――、




「きぇぇぇぇぇっ!!」



 たくさんの獲物に歓喜して奇声を放つ餓鬼と、


「助けてぇぇぇぇぇっ!!」

「ぎゃあああああ!!」


 阿鼻叫喚のちまたと化した子供達の絶叫により、掻き消されて――。




 
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