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吼える月
第26章 接近
◇◇◇
「ねぇ、なにが起こっているの!? なんの悲鳴なの!? ギル、イルヒ、スンユ!! ねぇ、どうしたの――っ!?」
ユウナは水の壁の内側から声を張り上げたが、返答はなかった。
イタチとシバが作る水壁の端、そこは行き止まりとして水壁で外界と遮断されている。どうやら光輝くふたりの方向に餓鬼は集まっているらしく、端には餓鬼の姿が見えずに、青く透明な水は普通に外界の様子を映し出した。
砲弾により砦の上部が崩れているのがわかった。
自分が飛び込んだ部分からイルヒやギル、そして多くの子供達も顔を出し、きょろきょろと海を見下ろしていたのもわかった。
だから精一杯声をあげたのだが、会話が成り立たない。
こちらの声は届かず、向こうの声もユウナには聞こえてこない。
それは恐らく水壁が音声を遮断しているのだと彼女は推察し、この水の中が安全圏であるのなら、内部から気づいてこちらに来て貰いたいと思った。
だが、こちらに気づいて貰えないどころか、声の調子が尋常では無いような悲鳴に変わりゆき、ギルの怒号も聞こえてくるのだから、よからぬ不安に胸が騒ぐ。
そして、ユウナは聞いたのだ。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
複数の、餓鬼の鳴き声を。
コドモタチヲシナセテハナラナイ。
ユウナの行動は早かった。
そのまま水の壁から外に出たのだった。そして目と鼻の距離に足をおける場所を見つけて、海に沈む前に飛び跳ねる。
"姫、いったい何を!!"
察したらしいイタチの声が心に響く。
"イタ公ちゃん。砦に餓鬼がいるのよ!! このままだったら全員が死んでしまうわ、だから直接助けに行く!!"
最悪、殺された子供が別の子供を襲うことになったり、共食いを始めるかも知れない。そんな悪夢を、作らせてはいけないとユウナはイタチに訴える。
空を見れば大きな鳥の群れ。
もしかして、天井を失った砦の中で起こっている惨劇に、出た屍を啄む気なのかもしれない。
そうはさせたくなかった。
ひとりでも無事で生きさせたい。
"すぐ船着き場があったの。そこから内部に入る。子供達を海に落とすわ!! だから中に入ったら、救助をお願い!!"