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吼える月
第26章 接近
"姫、無謀だ。姫、ちょっと…待て。姫、もしかしてこの気……"
"待てない!! 皆が死に行くのを黙ってみていたくない!! じゃあね"
"姫、姫……今…"
ユウナは、なにかを言いたげなイタチの声を無視して船着き場に飛び乗り、そこから砦の内部に入る。
久しぶりの地面。地面があるのとないのとでは安定感が違う。
海の上に住まう蒼陵の民は、不快感はなかったのだろうか。
恐怖をまぎらわすために、ユウナは別のことを考えながら、地面を蹴るようにして走る。
どくっどくっどくっ。
緊張に脈動が大きかったが、その足を止めることはなく。
そして――。
「皆、海に飛び込んで!!」
餓鬼が巣くう場所に行き着いたユウナは、大声を上げた。
「お嬢!?」
「ユウナ!?」
「イルヒ、ギル、ここにいるみんな、無事だったのね!?」
だが犠牲となった小さな骸は数個、無残な肉塊として転がっていた。
空間は血に染まり、魚の腸のように血生臭く。ちょうど今は、餓鬼は死体にかぶりついて動きをとめていた…束の間の休憩の時だった。
犠牲となった子供の頭が転がっている。
船で同乗し、操られてユウナを襲いながらも、砦できちんと謝罪して、イルヒと共に砦の子供達に紹介してくれた少年の顔があった。
泣き出したい気持ちを堪えながら、ユウナは叫ぶ。
「さあ、皆!! あたしが飛び込んだところから、あたしみたいに海に飛び込んで!! 海には玄武の加護がある。だからあたしは生きているの!! あたしを、玄武を信じて! 水を想起して飛び込んで頂戴!!」