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吼える月
第26章 接近

 
 だがユウナの言葉を理解して、動こうとする者達はいなかった。餓鬼に食われてしまうという恐怖に戦き、殆どの子供がひとかたまりになって隅で震えているのだ。

 帯刀していたはずなのに、それを使う余裕もなかったらしく、ところどころに鞘のついた小刀が落ちている。


 この中で、ユウナを認識出来たのは、塊と化した子供達の端に蹲(うずくま)っていたイルヒだけ。その彼女もまた、がたがたと震えながら、戸惑いの表情を浮かべていた。

 血だらけで肩で息して、子供達の前に仁王立ちしているギルも、ユウナが本物かどうか疑っているようだった。


 ユウナは、傍にあった瓦礫を、崩れかけている壁に投付ける。


 ドガッ。


 その音に、食事中の餓鬼が――ユウナに向いた。

 悲鳴慣れしてしまった餓鬼にとって、ユウナの叫びも気に留めるに値するものではなかったのだが、硬質のものが衝突する音は、餓鬼の注意を向けるには十分だった。



「あ゛~~」


 なにか気怠げな、気味悪い低い奇声に誘われるように、次々に、餓鬼達がユウナに向く。


 口からはみ出して見えるのは、子供の指……。

 それを餓鬼は、血を飛散させながら咀嚼していく。その埋没しかかっている目は、ユウナを捕らえながら。


 ユウナは震える自分に叱咤するように、大きな声で叫んだ。


「そんな子供より、あたしの方がおいしいわよ!!」


 餓鬼に言葉が通じるとは思えない。

 だがユウナは、逃がす時間を稼ぐために自らを囮にしようと思ったのだった。
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