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吼える月
第26章 接近
その捨て身の様が、ギルの疑念を薄れさせた。
「本当にユウナなのか?」
「ええ、あたしはユウナよ。ギル、イルヒ!! 海は今、玄武と青龍に守られているの。だから早く、海に飛び込んで!! 餓鬼はあたしが引き留めるから!!」
餓鬼の視線すべてがユウナに向く。
餓鬼達が立上がり、ユウナに向く。
低く唸るような声は、ユウナを餌に相応しいか推し量っているよう。
そしてその声音は、少しずつ高くなっていく。
餓鬼の底なしの胃袋は、子供より大きく柔らかそうなユウナを消化したいと、餓鬼の足をユウナに進ませていく。
「……っ」
ユウナは、震える唇を噛みしめて、一歩だけ退いた。
無謀だと、あなたは怒るのかしら、サク――。
好きだと気づいたこの心を伝えられないまま、サクと再会出来ないまま、無力なあたしが餓鬼を相手にするなんて。
ユウナは耳飾りをぎゅっと握った。
少しだけ、身体の震えが止まった気がした。
大丈夫。あたしには、最期まで……サクがいてくれる。
――姫様。
ええ、サク。
あたしは、ただ守られているばかりではいやなの。
あたしだって、守る側にいたいのよ。
あなただって、身体を張って皆を守ろうとするでしょう?
「きぇぇぇぇぇっ!!」
それを合図に餓鬼達の動きが速くなった。
ユウナは足元の小刀を手に取り、声を上げた。
「さっさと海に飛び込んで、ギル、誘導を!!」
飛びかかってきた餓鬼を横に避けて、ユウナはさらに怒鳴る。
「あたしの命を無駄にしないで!!」
「――お前らっ!! 海に飛び込め!! ぐだぐだ抜かす奴は、餓鬼に食わせるぞ!?」
ユウナの覚悟を見て、ようやくギルが動いた。
「イルヒ、お前は正気だな。大丈夫だな? 手伝え!!」
「お嬢……」
どうしていいのかわからないという弱々しい顔で、餓鬼を相手にするユウナを見た。
「イルヒ、お願いっ!! あたし達、お友達でしょう!? お友達なら、言うことを聞いて。水を……楽しい水の思い出を想起させて!!」