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吼える月
第26章 接近
餓鬼の牙がユウナを掠り、血の線が宙に舞った。
ユウナの息が上がっている。鞘を放り捨て、小刀で応戦する。
その必死な様を見て、イルヒはすべきことに思い至った。
イルヒは素早く深呼吸をして叫んだ。
「皆、海へ!! さあ、皆思い出して!! 前に海で皆で泳いで遊んだよね。楽しかったよね、お魚みたいに思ったあの時を、思い出して……さあ、飛び込め!!」
イルヒがギルと共に、子供を立上がらせて、背中を押す。
だが子供達は泣きじゃくって、飛び降りるのを拒む。
「海は、青龍は!! あたい達を絶対守ってくれる。海を、神獣を信じて!! さあ、あたい達も海の一部になるんだ!!」
ユウナはすべての餓鬼を相手にしながら、イルヒの声に涙を零した。
半信半疑だった神獣の力を、そして蒼陵を守る神獣の力を、あんなに小さな子供が信じてくれている。そして――。
「皆が行かないのなら、海が守ってくれるんだって、あたいが証明してみせる!!」
イルヒは自ら先陣を切った。
そして、海の中から叫び声が届く。
「あたいは生きてるよ――っ!! イタチの声も聞こえる!! 皆、早く来いって!! シバもいるみたいだ!!」
イルヒの声音は高くて張りがあり、そのために海上の全員にはっきりと言葉として、耳に届いたのだった。
「あたい達は、海の国の民なんだ。海はいつも身近にあっただろう!? 海は絶対あたい達の命をとらない。あたい達は誇り高い海の民!! あたい達だって、生まれながらの海の一部なんだよ!!」
身体を張ったイルヒの説得に、子供達が自主的に次々と海に飛び込んでいく。体格の大きい少年は、動けない小さな子供を抱えて落ちていく。
無事を喜ぶ歓声が海から沸き起こっている。
「おおし、そうだ。飛び込め!!」
餓鬼がそれに気づいて、対象を変えようとした。その様子を感じ取ったユウナは、餓鬼に斬りつけて怒鳴った。
「お前の相手は、あたしだ!!」
そして残るは、ギルだけとなった。