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吼える月
第26章 接近
「あたしは、あなたの嫁にはなれないけれど、イルヒと同じく、友達にはなれるでしょう!? 色々秘密があるみたいだけれど、今、あたしはあなたを助ける!!」
その姿は勇猛。
華奢な少女が、今まで餓鬼から必死に逃れていた少女が。
身の丈より長くて重い刀を両手で握り、見事な太刀捌きにて餓鬼を狙い定めて斬っているのだ。
ギルは、目と口を開けたまま、ギルを囲うようにして動いて餓鬼を斬る、そんな勇ましいユウナを見つめていた。
「あたし……、サクと共に最強の武神将に鍛えられていたの。サクと一緒に、怒られながら大きな刀をたくさん素振りさせられたわ。ようやく終わったと思ったら、さらに追加を出されたの。それをこなすことが出来なかったあたしは癇癪を起こして……気づいたら、警備兵が数人倒れていて。その時、ハンはこう言ったの」
――姫さんは、元々サクを引き摺って歩けるくらいの怪力の持ち主だ。"キレる"と瞬発力が上がり、なかなかの武芸家になるな。
――ああ、一国の姫が武神将より強かったら困る。よし、これからは姫さんの鍛錬はやめだ。その代わり、絶対サクと本気の喧嘩だけはするなよ?
「キレるのってどういうのかわからなかったけれど、きっと自分の無力さが身に染みた時に、出てくるものなのね」
落ちた筋力は瞬発力で補い、昔サクとハンに習った刀の使い方を身体で思い出すユウナは、極力筋肉を使わぬように、大きい刀ゆえの遠心力を利用していた。
僅かな年数とはいえ、ハンが教えたことはユウナの身体に息づいている。
「……こりゃぁ……、兄貴が最強の武神将に勝てないわけだよ……。教え方だけで実力のほどがわかるっつーもんだ。俺とは大違い。がはははは」
ギルは大笑いしながら、服を破って腹の上に縛り、応急的な止血をする。
「ギルが"兄貴"でしょう? なんでハンがそこに?」
「いいんだよ。ほら、寄越せ」
刀を奪い取り、ギルが言う。
「あと二体だけだ。ここはふたりでなんとか凌いで、海に飛び込むぞ」
「ええ!!」
ユウナはにっこり笑って、落としていた小刀を拾った……時だった。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
さらに大勢の餓鬼達が詰めかけてきたのは。