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吼える月
第26章 接近
どう考えても状況は不利。
ここはふたりで海に飛び込むしかないと顔を合わせた時、海に飛び込んだ場所からも外から餓鬼が侵入してきた。
四方を餓鬼に囲まれ、逃げ道が塞がれて。
ギルがユウナを引き寄せる。
「いいか、俺の屍踏み越え、海に飛び込め。それしかもう生きる術はない」
「いやよ。それならあたしが……」
「お前が死んだら、サクはどうする!?」
「……っ」
「サクの嫁になるんだろ!? サクはお前に惚れてるんだろう!? だったら、惚れた男のもとで幸せになれ!! それが辛い中を生き抜いたお前への"褒美"だろうが!!」
「ギル……」
「俺は生まれながらに、誰かの代替。日影の身。このまま消えても誰も文句はない」
「そんな!! 子供達が悲しむ……」
「シバがいる。シバがこの子供達をまとめあげた。俺よりシバの方が刀術も遙かに上。俺はただ……、シバを護れればそれでいい」
ユウナは思わずギルの頬を叩いた。
「ひとの命に優劣はないわ。あなたが死ねば悲しむものがいる。それはあなたが…懸命にしてきたことの証じゃないの」
「………」
「あなたがどんな秘密があろうと関係ない。どんな理由であれ、自分を卑下しないで!! そんなの"あなた"に失礼よ!!」
「きぇぇぇぇぇっ!!」
餓鬼達が一斉に襲いかかってきた。
もう逃げ場がない。
だからギルは――、刀を捨ててユウナを両手で高く持ち上げた。
「ギル!!」
餓鬼達が、無防備なギルの身体に噛みつく。その痛みの衝撃にくっとギルの顔が歪むが、無理矢理それを笑いに変えた。
「ありがとよ。本当にお前を嫁にしたかったな……」
「ギル、離して!!」
「おいこら暴れるな。
……ユウナ、俺の腹に傷を負わせたのは……スンユだ」
「え!?」
ギルの狙い通り、ユウナは驚いて動きを止めた。