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吼える月
第26章 接近
その…少し悲しげな、鎮魂舞の時にかかるような哀切な笛の音に、ユウナは聞き覚えがあった。
それは確か、黒陵国で――。
ユウナが記憶を遡っていた時だ。
ユウナの体躯の二倍ほどの大きな翼を拡げた鳥が、笛が聞こえる鳥とは別の、斜め上から突然に急降下して来て、
「ユウナ!!」
その足に腰紐をひっかけるようにしてぶら下がっている、ひとつの長い黒髪を風に揺らした者が、落下するユウナの手を取り、背中を持ち上げて抱擁のように抱きしめたのは。
速度を増して落下していたユウナの身体は、顔を海に向けて二つ折り状態のままで浮いたまま…、逆に緩やかに上昇しながら大空を旋回した。
「あなたは……」
笛の音はまだ続いている。
こうして空をぐるぐる回られると、空を飛ぶ多くの鳥のうちどれが笛の音を放つ鳥なのかわからなくなってくる。
「ああ、久しぶりだな、黒陵の姫」
ユウナの腹を両手でがっしりと支えているのは、船出するのを助けてくれた…、あの可愛らしい少女の保護者のように付き添っていた、切れ長の目をした麗しい顔の男性……のような女性だった。
それを顔を上げて確かめたユウナは、顔を赤く染めて俯いた。
女性だとわかっていても、たとえ今まで通りに笑わずに涼やかな表情しか見せなくとも。なんだか身体を抱きしめられるようにして触れあっていることにどきどきしてしまう。
……こんなこと、サクには言えないが。