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吼える月
第26章 接近
「な、なんでここに……」
「ああ、お嬢様が"熊鷹"の調教に随分と凝られてしまってな。さらには、倭陵にも珍しい上に、集めていたのは翼を拡げると私の倍以上もある大きさの、屈強な鳥だったから、集めるの自体にも時間がかかってしまったのだ」
「は、はぁ……」
人間二人を悠々と運べるこんな怪鳥、倭陵にいたことすらわからなかったユウナは、おかしな声しか出てこない。
「え…と、それで、お嬢様……ええと、確か名前…あ、ユエちゃんは?」
――きゃははははは!!
「ああ、笛の音で、あの崩れた砦と海の上の餓鬼の動きを止めておられる」
「あの笛、ユエちゃんが吹いているの!?」
「そうだ。あれで餓鬼の動きを止めていられる。そしてお嬢様はそれに、癒やしの音を混ぜられている。傷ついたものの回復を早める音を」
「だったら、だったら……っ!!」
ユウナは砦の上に、同じような大きな鳥が群がっているのを見た。
「あればギルを食べているのではなくて」
「あの男をあの場から連れ出しにかかっている。肉体にかなりの損傷を被っただろうが、お嬢様の音で餓鬼の動きは止まり、回復の音で致命傷にはなっていないはずだ。あの男を、神獣の力がふたつもある海に連れれば、身体を損傷していたとしても回復は早まる。なによりあの男は、青龍の武神将の弟。開眼してなくとも身体に眠る青龍の血が、安易にあの男の命を奪わない。あとはあの男の気力次第になるだろうが」
「ジウ殿の弟!? え? それに神獣がふたつって……、イタ公ちゃんや青龍の力を、あなたも感じられるの!?」
「ああ。ギル…という名のあの男は、青龍の武神将の弟。青龍の武神将が最も信頼する、裏方に生き続けていた男だ」
――俺は生まれながらに、誰かの代替。日影の身。このまま消えても誰も文句はない。
「ジウの命を受けて、ここで子供達とシバの面倒を見ていたそうだ」
――シバがいる。シバがこの子供達をまとめあげた。俺よりシバの方が刀術も遙かに上。俺はただ……、シバを護れればそれでいい。
ジウとギルは反目していなかったのか?
ジウがギルに託したことは、聞いていたことに矛盾していないか?
ジウは、まさか――。