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吼える月
第26章 接近
「お嬢様と私は神獣の力を感知できる。それゆえにお前達のもとに現れることができるのだ。当然、この海がふたつの神獣によるものだということはわかっている。ただ危惧すべきは、玄武だ。海を見ろ」
促されるようにユウナは海を見た。
イタチとシバを力を合わせている証拠の、大きく盛上がっていたはずの海は、大きくなったり小さくなったりと、非常に不安定な形状を示していた。
「イタ公ちゃんとシバになにか!?」
「シバという者は、神獣の力に慣れておらず、玄武の導きによってなんとか放出出来ている具合だから、あの男も自ら制御出来ぬかぎりは、体力が消耗するばかり。なにより玄武の方が、盟約違反を犯したツケが出ている頃だろう」
イタチの名を出しても玄武と返るそこを不思議に思わないほどの動揺しているユウナは、意味不明な単語に驚いた声を出す。
「盟約違反!?」
砦にとまっていた鳥が、なにやら物体を抱えて海の方に降り立った。
多分それは、ギルだとユウナは直感した。
どの程度の損傷かはわからないが、元気になることだけを祈る。守るために身体を張ったその気概は、この国の未来にも必ず必要になるように、ユウナには思えるのだった。
「そうだ。他の神獣がいる国で自らの力を放出し、青龍の力を宿すものを自らの意志で開眼した。他国不可侵の盟約を、玄武は自ら破ったのだ」
女の言葉は、ユウナにとっては理不尽過ぎた。
「そんな!! だって、ここに青龍の加護がなかったから、だからイタ公ちゃんは……」
「加護なくとも青龍は生きておる。青龍の力が存在していることがその証明。青龍の存在を知りつつも、青龍の許可なく玄武は動いた。そこが問題だ」
「だったら…、玄武の力で皆を守ろうとしているイタ公ちゃんはどうなるの!?」
「玄武の力を持つ武神将も帰らぬ今、その盟約違反による罰をその身体で感じているはずだ。それでなくとも玄武は昔のものとは変わり、ゆえにひとに近く特殊。このままでは、イタチの身体が砕ける」
「なんですって!?」
ユウナは、悲痛な叫び声を出した。