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吼える月
第26章 接近
「玄武も愚かではない。盟約違反を知りつつも、そんな強行に及んだのは、あの男を…、玄武の武神将となった男の帰還を、固く信じて待っているからだ」
「サクが帰れば、イタ公ちゃんは助かるの!?」
「絶対、ではない。だがあの男が玄武の力を保有していることで、イタチが"死"を迎える可能性はかなり低くなる。盟約違反を反故にする裏技があるのだ」
「だったら――」
なんでそんなことまでこの女が知っているのかわからない。だがこの女に害意がないことだけは感じ取れる。ならばこの女の言葉を信じて、自分ができる最大のことをしたいと思ったユウナは、毅然と言った。
「あたしを、渦で囲まれているという青龍殿に連れて行って。あたしが、サクを連れてくるから」
イタチに無理をさせたのは自分なのだ。
イタチは、皆を守ろうとしてくれただけなのだ。
死なせるわけにはいかない。
「無理だ」
「どうして!?」
「お前では"真実の青龍殿"に行き着かぬ」
「意味が分からない。真実って、青龍殿は他にあるっていうこと!?」
その時、笛の音を放つ大きな鳥が寄ってきた。
頭部から突きだした、まるでふたつの角のような冠羽と、険しい黄色い目に、ユウナは思わず怯んだ。
同じ鳥にユウナも吊されているのだが、それが分からぬユウナは、初めて見る迫力ある鳥に、恐怖しながらも魅入ってしまう。
熊鷹…というのなら、きっと熊のように大きく強い鷹であろうとは思ったが、山育ちのくせに熊も鷹も見たことがないユウナにとっては、自分の常識を遙かに超えた怪鳥だった。
なにより迫り来る、焦げ茶と黒が斑点や縞模様を描く、幅広のふたつの翼が大きすぎる。
……その大きな足が、背中の服をひっかけて吊っているのは、赤い服を着た黒髪の少女。少女は笛をやめて手に握ると、反対の手をぶんぶんと大きく降った。
「きゃはははは!! ユウナちゃぁぁん、お久しぶりだね~」
それは、サクに"天馬"を授けたユエだった。