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吼える月
第27章 再来
ユエがサク達のもとに現れた後、ユエに従ってついていけば、青龍殿の中庭に、処狭しと羽を畳んで行儀良く待機していた無数の熊鷹達がいた。ユエが声をかけるとすべての鷹がその言葉に従うかのように、一斉に少し飛びながら、足をくいくいと動かす。
――ええと…皆、ユエを見て~。この鳥さんは上に乗れません。こうやって前に屈んであげると、鳥さんがこうやってひょいと、掴みやすい腰紐をひっかけてくれて、こうやって高く飛んでくれてぶら~んぶら~ん。きゃはははは!!
説明になっていない実演。子供ならまだしも、あんな小さな足に武器と鎧を持つ大の大人を持ちあげるまでの耐性はないと、誰もが戸惑う中、重い鎧と武器を持つ……誰が見ても一番重そうなジウが実験台となるが、難なく軽々と鷹は持ち上げ、安心して皆がそれに続いた。
そんな時、
――冗談じゃねぇよ、なんで玄武の武神将が、姫様のもとに鳥にぶらさがって戻らねぇといけないんだ。俺を連れるというのなら、身体の上に乗せろ。
腕組みをしているサクと、酷く険しい目をしている鷹との睨み合いが続いたが、根気負けしたのは鷹の方で、地面に座り込むとくるりとサクに背を向けた。
「お前、なかなかに素直で良い奴だな。お前の顔、おかしなところに入っている模様が皺みたいで年寄臭いから、"儂(ワシ)"と名付けてやろう。鷹なのに鷲(ワシ)…、どうだ、嬉しいか、ワシ」
勝手におかしな名前をつけられた鷹は、ぴぇぇぇぇ~と歓喜の声をあげて、ばさばさと両翼を動かし、そのまま空に飛び、そして全員で、罠が発動されない青龍殿を難なく抜けてきたのだった。
「ジウ?」
テオンは、黙ってなにやら考えているジウを見る。
「もしかして、自慢の罠が鳥と子供に抜けられて落込んでるの?」
「いや…、まあ落込んでいるといえばそうですが、猛禽を手懐けるサク殿はさすがはハン殿のご子息だと説明がついても、青龍殿の盲点を看破した、あの"きゃははは"の少女がどうも……」
「見ず知らずの子でも、お兄さんが警戒していないのなら、僕達には安全じゃないか?」
「安全かどうかではなく…、耳にきんときそうなほどに甲高いのに、決してうるさく思わない……あの声を、どこかで聞いた気がするんです」