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吼える月
第27章 再来
「ユエ殿は、サク殿の感情面をうまく調整されているような気がします」
「調整?」
「はい。ハン殿曰く、ユウナ姫のことになると、サク殿は暴走して我を失うところがあるらしいですから。なんでも、それくらいの…二桁にもなる長い年数の姫への片想いは、かなりのものであるようで。いつもハン殿はそれは笑って……、失礼、嘆いておりました…」
おかしな咳払いをして言い直すジウは、ハンが腹を抱えて息子の恋路のことをおもしろおかしく茶化してばかりいたことは、友の名にかけて、サク周辺には秘めておくつもりらしい。
「……。うわ…。お兄さん、そんなに報われてなかったんだ…。っていうか、お父さんのお喋りで隣国まで伝わってること、知っているのかな…、お兄さん……」
テオンが非常に哀れんだ眼差しを送った先は、ユエと追いかけっこをしていた。気の毒なのは、とばっちりを食らって、無駄な動きを強いられる鳥達である。中でもサクを乗せた鷹が限界近くまで踏ん張りすぎて、翼の羽ばたきは……優雅というよりばさばさと早く荒いものとなり、黄色いその目が血走っているようにテオンには見えてくる。
「きゃはははは!! サクちゃん、いやあああん!!」
「待てよ、チビ!!」
ぴぇぇぇぇぇ。
悲鳴のような鳴き声を出す鳥の気持ちを、きっと人間達は知らないのだろう。だからああやってはしゃげるんだとテオンは思う。これから、化け物のところに行くというのに。
「待て、このチビ!! ワシ、あんなチビに負けるな!!」
ぴぇぇぇぇぇ。
「サクちゃんに負けないもん!! 鳥さん、鬼さんに捕まらないようにがんばって!! きゃはははは!! 鬼ごっこ、鬼ごっこ、きゃはははは!!」
「ねぇ、ジウ。調整…している? "鬼ごっこ"で遊んでいるようにしかみえないんだけれど、あの子。お兄さんに構って貰えて、思いっきり喜んでいるじゃないか」
「遊び相手のフリをしているんです、……きっと」
「そう…?」