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吼える月
第27章 再来
ユエの鷹は、移動よりむしろ笛をよく響かせるために減速を始め、早く移動し続ける集団とは別行動をととり始めた。
突然の奇妙な行動に対して、サクが声をあげることもなく、ふたりの間でその合図は既になされていたのだろうとテオンは推測した。
「あの子、なんで笛を吹き始めて……。あれ、何だろう、海が黒くなってる? その上に船が……凄い数の船が、しかも軍船みたいのがなんであんなにたくさん並んで……」
テオンの疑問に答える前に、サクがジウのもとに寄ってくる。
「サク殿、これは……」
「ああ。餓鬼だ。餓鬼の気が、あの船にもあるということは、船から餓鬼が放たれているんだろう。今、チビが餓鬼の動きを止めている。あいつが笛を吹き続ける限りは、大丈夫だ。ジウ殿も感じるはずだ。蠢いていた穢れが、笛が吹かれてからは、まるで硬直したように動いていないことを」
「うむ。動かないのに、存在している…邪な気配。ユエ殿は一体…。彼女からは神獣の力も感じぬというのに……」
「俺も知らねぇ。……が、親父はなんだかわかっていたみたいだ。そういえば……」
サクは、乗船する時に見せた木札の存在を思い出す。あまりに中央の兵士が態度を変えたために、これは対人間に、凄い威力のあるものものだと思い、無くさぬようにと己の腰紐に括り付けて上衣で隠していたのだった。
サクから模様が描かれたその木札を見せられたジウは、神妙な顔をしていたが、埋没しそうだったその小さな目がカッと見開いて、存在を主張する。
「それは皇主の密命を受けたものの証!!」
「ああ…なんだか中央の奴らもそんなことを言っていたな。それでなんか勘違いされたんだ。ええと…」
テオンがその木札を覗き込んで言った。
「お兄さん、それは、"月(ユエ)"の持つ札だよ!!」
「おう、だからあのチビにこれを貰って……」
「違う、名前じゃなく、皇主が密やかに命じて動く隠密集団の方の名前! 皇主同等の裁断権を持つ者達の!!」
テオンの声がひっくり返る。