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吼える月
第27章 再来
 
「ああ、俺もそう聞いていた。俺は物心ついた時から、黒陵の警備兵の中に入っていたが、どこにも船についての知識も、船で闘うことを想定した鍛錬もしてこなかった。山相手のものばかりだ。それに第一、黒陵には中央が独占している輝硬石などなかった。親父は地方に配給されることをずっと心待ちにしていたんだが…」

 ハンはサクをからかってはいたが、国や武術に関することで、息子に嘘をつかない。それだけはサクは断言出来た。父であっても武神将の誇りにかけて、個人の域を超える軍事は、次代へ繋ぐためにすべて教えられてきたのだ。


「ハン殿を疑う気はない。では…、黒陵の祠官が許可をして、それが堂々と国の紋章を刻んで、蒼陵を武力で制圧しにきたというのだろうか…。4国の不可侵の取り決めを反故にする許可を……」


 ジウの言葉を受けたようにして、サクの反対側にテオンがついた。


「黒陵を馬鹿にしているわけじゃないけれど、山育ちの人間達が鍛錬なしに船を操ることは出来ない。船に対しての知識と技術がなければ」

「……テオン様の言う通り。サク殿、あの船は円状に取り巻いているが、あの距離は恐らく砲弾が届く距離。船の性能を知り、これだけの船を見事に動かせることが出来るのは、黒陵にはいますまい」

「だとしたら、ジウ。船を操っているのは?」

「可能性はみっつ。ひとつは船自体幻覚。ふたつめは、船を不可思議な力で動かして操った。みっつめは……」


「蒼陵の民が、黒陵の船を操縦している、か。しかも集団の船の統率になれている。個人で動かす船なら、あんなに綺麗に円陣組めねぇはずだ」


 サクの言葉にジウは頷いた。


「そしてあれだけ多くの輝硬石を保有出来る者……」


 条件に合う者が皆の頭に思い浮かぶ。

 今、行方をくらませている……元次期青龍の武神将だ。

 

「ヒソク、か。

あやつなら、確かに多くの軍船を統率する鍛錬をしておる」


 ジウがぎりぎりと歯軋りをして、忌々しげに言葉を吐き捨てた。
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