この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第27章 再来
「私がヒソクに真実を言っていれば…、ヒソクはこんな売国奴のようなことは……」
「違うな、ヒソク殿に本当のことを言っていたら、この国は今日を待たずに滅ぼされて、青龍の鍵を奪われていた。遅かれ早かれ、蒼陵は危機に面することは必須。だが、ヒソク殿をこのままにするのか?」
サクは餓鬼で黒く濁る海を促す。
ジウはため息をついてから、強い語調で言った。
「………自業自得、だ。黒陵に模した船など作ることでなにが起こるか想定できたはずなのに。次期武神将として、なにを善としなにを悪とするか、なにに従いなにに抵抗するのか。……そうした心得を説いてきたはずだったのに……」
餓鬼の海に見捨てると、暗に示してジウはサクから顔を背けた。
「…なあ、この円陣となる船の並べ方は、蒼陵の船術にあるのか?」
突然に話題が変わり、ジウはサクに怪訝な顔を向ける。
「左様。蒼陵は巨大な魚が悩みの種。そうしたものを捕獲あるいは退治するために、逃げ場を塞いで一点に追い込む…猟師達の知恵から出た船術だが、警備兵なら誰でも知る基本のものだ」
これが蒼陵で知られた策であるというのなら――、
「だとすれば、あなたの息子なら、ヒソク殿ならどこに船を置く?」
必ず指揮官が乗る船はあるはず。
サクはまっすぐに、戸惑うジウを見た。
「え、まさか…この状況で、お姉さん放ってヒソクに会いに行くの?」
「放置するわけじゃない、手分けだ。ヒソク殿を助ける。ジウ殿がたとえ縁を切ろうとも、ヒソク殿はジウ殿の実の息子なんだ。餓鬼に食わせたくないだろう!? テオン、お前の父親もそうだったように、父親は子供を見捨てられねぇもんなんだよ」
「お兄さん……」
ジウの唇がわなわなと震えた。
「ジウ殿。あなたの視線は、海を見渡すようでさっきからなにかを探している。そこにヒソク殿はいるんだな!?」
「ジウ、本当!?」
「……、恐らくヒソクなら、恐怖を感じたらなにかの影になるところに隠れるかと。つまり、これから見えてくるだろう…砦の裏側に」
ジウの声は消え入りそうだ。