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吼える月
第27章 再来
「そんなの、シバだって!! 子供達はあなたを慕っているのよ、頼りにしているのよ!!」
たとえ親に捨てられようと、その生存を必要としてくれる環境にいる。親から捨てられたことは、帰る場所が失われることではない。シバは自分の力で、居場所を…帰りたいと思える場所を、獲得しているのだ。
「俺は……」
シバは、回復球に入ったままのギルを見た。
「俺は、ギルがいなければ……帰る場所がないんだ」
それはシバが見せるギルへの思慕。不遇な生い立ちの中、どれだけギルを心の拠所にしてきたのかがわかるものだった。
シバの悲痛な心の吐露を受け、ギルが傍目で回復不可能と思うほどの重篤に陥ったのは自分のせいなのだと、改めて強く胸を痛めるユウナの前で、シバはくるりと背を向けた。
「いいか、お前達!! 今ギルは、神獣の力に包まれている。だからこの球のところに集え!! 神獣がお前達も守ってくれる」
「本当!?」
「シバも早く!!」
「あっち! 金色の光が、大きくなったよ!?」
「きっとギルもお前達を助けに起き上がる。"兄貴"はいつだってお前達の味方だっただろう? 今度も必ず来てくれる。だからいいな、希望を持つんだ。お前達は死なない。俺だけではなく、ギルも神獣もお前達の味方だ」
励ましているのはシバだというのに、シバから出てくる言葉は、ギルばかりだった。そしてギルの名前に、子供達は落ち着き始める。
【海吾】の子供達を身体を張って守るのがシバであっても、ギルは子供達の心の拠所なのだ。シバを始めとして、誰もが帰りたいと思える場所にギルは居る。
それを見たユウナの目から涙が零れた。
ギルが起き上がってくるはずがない。ギルを加護しているだけの神獣の力が、子供達を守れる筈はない。水の壁ですら、こんなに薄く不安定なのに、ゲイの力を消すことなんて出来やしない。
シバはそれを悟っている。
だからせめて、希望に満ちた状態のまま逝かせようとしているのだ。
子供達を支えてきたギルの名を出して、少しでも恐怖が薄まるようにと。
シバだけでも逃げられるかもしれない。
だが最期まで、子供達と共にしようとしているように、ユウナには思えるのだった。