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吼える月
第27章 再来
「兄貴、まだ立上がらないね」
「お嬢……、猿はまだかな。猿を見たら兄貴起きる気がするんだ。早くこっちにおいでよ、危ないよ?」
子供達の笑顔を見る度に、ユウナは動かないイタチをぎゅっと抱きしめる。ぽろぽろと流れる涙がイタチの白い毛を濡らしていく。
ゲイがこちらに手の平を見せ、金色の光を纏う。
それを見たシバが、子供達を小さく自分の身体の中に出来るだけ多くの子供達を入れながら、ユウナに叫ぶ。
「ユウナ、行け」
「なんでシバ。ユウナもここに居た方が」
「そうだよ、お嬢、早く!!」
「行け、ユウナ――っ!!」
どうすればいい?
どうすれば、あの男を倒せる?
サクの四肢を簡単に砕いた相手があんなに遠いなら、命を助ける条件に身体を捧げることもできない。取引ができない。
「早く、ユウナっ!!!」
今ユウナができるのは――
祈ることだけだった。
祖国を捨ててきたが、ユウナにとっての絶対的な神獣は、玄武のみ。
その黒陵で惨劇が起きて苦痛を味わっていても、やはり最後に頼みたいのは、玄武しかなかった。
そんなユウナの必死の思いは、強い生命力を持ち、牙の耳飾りを通してイタチの身体に注がれていた。
目を瞑り必死に祈るユウナは気づかない。
手の中で青白く光るイタチが、サクと交信できるまでになっていることに。
ユウナの祈りは、彼女の意識の深層まで響く。
心身の祈りは、神獣の力となっていく。
「――お願い、神獣玄武。どうか…どうか守って下さい。どうかどうか…あたしにサクと会わせて!!」