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吼える月
第27章 再来
 

 
 玄武に祈りが通じた――。

 ユウナは歓喜に胸が一杯になった。


 玄武はいつも自分と共に在り、サクもまた、自分と共にいてくれているという事実は、ユウナの心を暖かくさせる。


 玄武こそが自分が崇めるべき神獣であり、サクこそが自分が契約した唯一無二の武神将なのだと思えば、その絆が愛おしくてたまらない。


 サクが水の内側に入ってくる。

 泣き続けるユウナを見ると、サクは眉を顰めた。


「……どうしたんですか、その怪我」


 それは餓鬼に引っかかれた浅い傷だった。頬だけではなく、首や手に傷が出来ていたのだが、ユウナには手当などする余裕もなければ、怪我をしているという自覚すらなかった。

 ようやく会えたのだ、もっと違う言葉が欲しかったけれど、そういう機微に疎く武骨なのがサクだと思えば、緊張がとけたようにユウナは泣きながら声をたてて笑った。


「なんで笑うんですか」

「だって……」


 ふっと、会話が消え、ユウナは笑いを止めた。サクの黒い瞳がゆっくりと揺れながらユウナを見つめていた。

 声がなくなれば、ユウナの鼓動が慌てたように忙しく動き出す。



「姫様」


 甘く優しいサクの声に、胸がきゅっとなった。


 黒髪を揺らし、精悍な体躯をした美丈夫な男。

 玄武を象徴する玄武織の施された、青黒い服を着たその男は、ユウナが待っていたそのひとで。

 再会したら色々言いたいことがあった。だが実際会うと、言葉が出て来ない。出て来ないもどかしさと、再会出来た喜びに、また涙だけがはらはらと零れるばかり。

 なにをどうすればいいのか、わからない。

 声をかけたい、触れたい……願望ばかりが頭に渦巻いて、身体がまるで動かない。


「うっ……うっ、えぐっ」


 もどかしさが悔しくて、嗚咽まで漏らして感情表現をするユウナに、サクが苦笑して両手を拡げた。


「どうぞ?」

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