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吼える月
第27章 再来
その余裕が悔しくて。
だけどサクが甘い表情で誘うのなら、それを踏み留めたい気持ちはない。なにより自分がそう望んでいるのだ。
サクの誘惑に身体が反応する。それまで動かなかった足は、するりと動いてサクの元に向かっていく。
「サク……」
「姫様……」
その距離が、縮まっていく――。
「小僧――っ!!」
イタチが、突如ユウナの手から飛び跳ね、サクの前髪を掴んで、サクの顔に貼り付き、長い尻尾を激しく左右に振りながらサクの頬をぱしぱし叩く。
当然サクの視界には、白いふさふさに邪魔されて、もう少しで触れられる距離にいるはずのユウナが見えない。目を開けない。左右に揺れる長い尻尾の毛が目の中に入ってくるためだ。
「小僧、待っていたぞっ!!」
「イタ公、今は俺、姫様と……」
「小僧、会いたかったぞ……、我は、我は……しくしく…」
まるでこちらの事情などお構いなしで、再会に感動して泣き出してしまうイタチを、サクは強制的に顔から剥ぎ取る気にもなれない。仕方が無くため息をついて、イタチのふさふさの背中を撫でる。
感涙も次第に落ち着いてきたらしいイタチを、サクは定位置となっていた頭の上に乗せた。
「ふむ」
満足そうな声が聞こえる。
サクは、また二本足で偉そうにふんぞり返って立っているのだろうと推測するが、実際その通りのイタチの立ち姿である。
「ふむふむ…。ふむふむ、踏む踏む」
「足動かして、踏まなくてもいーから。お前の足の爪に髪が挟まって痛い」
「いっいっいっ」
イタチは愉快そうに、奇声を上げた。