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吼える月
第27章 再来
「やはり高さといい、立ち心地といい、小僧の頭の上が一番だ!!」
「立ち心地……って、いてっ、飛び跳ねるな!! 髪がひっかかって……いで!! お前元気よすぎじゃねぇか? またイタチ寝入りしていたのか? って、そういえばなんだ、お前なんで喋ってるんだ? その声、あの姿の時の声じゃねぇか!! なんでそんな声を出して……」
サクの言葉はイタチには届いていない。イタチの満足度はあがる一方だった。
「上出来だぞ、小僧。あやつの光は水の壁に返されて、船を破壊し続けている。わかるか! 餓鬼を輩出する船が壊れれば、海の浄化が早くなることに。それに気づき、攻撃を止めた。今のうちに、はよ。皆を餓鬼のいないところに連れ出すのだ!!」
「ああ、わかった」
「わかったならはよ、はよはよはよ!!」
「せっかちだな!! わかったから、まずは姫様と……」
「はよはよはよはよ!!」
「ふふふ……」
サクが微笑むユウナと目を合わせた。
ふたりの瞳が揺れる。
会いたくてたまらなかった、……恋する相手を目の前に、ふたりの胸が甘く疼く。
とくとくと、早まる鼓動を感じながら、ユウナは玄武殿で、遠征から帰るサクを出迎えた時のように、満面の笑みを向けた。
「サク、おかえりなさい」
穏やかな昔を彷彿させるような、それはユウナが望む幸せの時間。
……今まで、サクと築き上げてきた大切なもの。
「……ただいま。……姫様」
頬を赤く染め、照れくさそうに笑うサクに、ユウナは嬉しそうに笑った。
二人の笑顔が、次第に切なげなものに変わる。
「サク……」
「姫様……」
そしてサクが、自ら足を踏み出しユウナを抱き寄せようと、ぐっと手を伸ばした瞬間――。
「猿――っ!! 賢い猿――っ!!」
「猿兄さん!!」
イルヒを始め、子供達がこぞってサクのもとに駆け付け、ユウナとの距離が離れていく。
「おい、待て。ちょって待て!! 空気を読め、今俺は姫様と感動の……」
「猿、猿、猿、猿!!」
猿コールまで始まった。