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吼える月
第27章 再来
「ああ、くそっ。なんで姫様がこんなに遠い……あれ、そういえばギルは?」
傍目では、まとわりつく子供と"遊ぶ"サクが、きょろきょろとあたりを見渡して疑問を口にした。
サクの視界に居る大人は、微笑むユウナと苦虫を噛み潰したような顔のシバしかいない。
「兄貴は、酷い怪我をしたから、あの水色の球の中で寝ているよ?」
「あそこで寝たら、兄貴元気になるんだって」
子供の返答に、サクは怪訝な顔をした。
ギルの気は、玄武の力を感じる水の球の中から、幽かに感じられる程度。こんな状態で動けるものなのか。
また、こんな力を流してご大層なものを作り出しているからこそ、イタチは弱まっていたのだとサクは悟る。
今イタチは、サクの中から力をするすると勝手に引き出して、自らの活力としているようなため、異常な元気さを見せている。
イタチにとって自分は、「イタチの力を溜めている倉か!」と毒突きたい気分だったが、弱るまで窮地に陥っていることを気づけなかった自分が一番、口惜しい事実だった。
"あの者は餓鬼に食われながら、姫を助けたのだ"
イタチが心の中で、話し出す。
"あの者の体内には、覚醒しておらぬ青龍の力があるゆえ、我の力はあの者の体内に浸透できず、その命を繋げることしか出来ず。欠損した部分の再生は難しい。青龍がおれば、いくらかは見栄えがよくなるだろうに"
ギルがユウナを助けたから、ユウナはこうして無事に笑っていられる。
ギルに感謝の念は芽生えるけれど、ユウナを救ったのが自分では無いことが妬ましくもある。
"狭量よのぅ……"
"うるせぇよ、黙れ!!"
自覚していることを図星を指されて、サクは心の中で憤るが、借りた恩は返すのが彼の信条。
"イタ公、ちょっと時間くれ"
ギルはジウに似て、命令であろうと演技が出来ない男なのだと、サクは勝手に思っていた。きっかけはジウからの命令だったのかもしれないが、シバと子供達を守り抜いてきた事実があるからこそ、子供達に慕われる今がある。
ならば――。
「兄貴に内緒で、いいことを教えてやる」
サクは真剣な顔をして、子供達に耳を傾かせる。
「お前達を救ったのは兄貴だ」
ならば、身体が動かずに"子供達を守れなかった事実"を、書き換えてしまおうと。