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吼える月
第27章 再来
「だけど、シバの言う通りに兄貴は立上がらなかったよ!?」
「そうだよ、動かなかった!! 助けてくれたのは、猿兄さんだ!!」
子供達の目に、ギルに対する軽い失望が見えたからこそ。
「動けないから、俺の身体を使ってお前達を守ったんだ。俺は直接ギルに頼まれたんだ、身体を貸してくれと。動けなくてもお前達を守ろうとするギルは、凄いだろう!?」
「本当!?」
「兄貴、凄ぇや!」
ここにギルという英雄誕生――。
サクの作り話に、子供達は目を輝かせてギルを見ながら何度も頷いた。
これぞ本当の"子供騙し"。
ギルを崇拝する子供だから騙される、完全なるホラ話。
だが嘘も時には、希望と強さになる。
支えの姿が見えなくとも、名だけでギルは子供達の心を支える。
それはシバも使った、優しい嘘――。
ユウナの横に立ったシバが、静かに言った。
「……オレの言葉通りにはならず、ギルが立上がらないということで、あいつらはオレを"嘘つき"だと思うだろうな。子供達を救ったのは、ギルでもオレでもない。隣国のイタチと玄武の武神将だ」
その顔は寂しげな翳りに覆われていた。
「オレの立ち位置、あいつは簡単に……」
「サクは、シバの場所を奪わないわ。ほら……」
「シバはな、お前達をびっくりさせようとして"嘘"ついたんだ。だからお前達、俺が突然ここにきたことびっくりしただろう、作戦成功だ。シバにもギルから連絡があったんだ。シバだってお前達を守っていただろう? シバが、お前達を騙して裏で笑っているような男だと思うか?」
「ううん、思わない」
「恐怖にびくびくするお前達を和ませるために、驚かせようとしたシバが、嫌いになったか?」
「なるものか!! だって全員、兄貴もシバも大好きだもの!」
揃った声に、シバの唇が小刻みに震え出す。
その顔の表情には、さして変化は見えないのだけれど。
「事情を知らなくても、ちゃんとシバの居場所を確保している。子供達もちゃんとあなたの場所を用意している。大丈夫よ、シバ。あなたが作った居場所は…あなたが帰るべき場所は、誰も奪わない。いえ、あたし達が奪わせない」
ユウナはシバを見て微笑んだ。
「あなたの帰る場所は、ちゃんとある。ギルはその案内役になっただけよ」