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吼える月
第27章 再来
 

「……姫様、なんで赤くなるんです? 体調悪いですか? それともその傷が痛んで熱でも? だったら玄武の力で治療を……」

「違うの、そういうのではなくて…」

「じゃあどんなものですか?」


 悲しいかな。片想い歴が長すぎたサクは、降って湧いたような…長年の望みが叶えられているとはまるで思わず、あさっての方向に進んでいた。

「姫様?」

「いや、だからその……無理無理無理!!」


 ユウナは狼狽する。なにが嬉しくて、こんなにやにやしている子供達の前で、サクに告白しないといけないのか。


「イルヒもイタ公も知っているのに、なんで俺には無理なんですか! 俺には言えねぇことで、姫様だけが"いいこと"…。まさか他に誰か好きな男が出来たとか、そういうオチ!?」

「違う違う違う!!」



「……ふぅ。こいつ、やはり馬鹿だ」


 シバだけが機嫌悪い顔つきの中、イタチすら知るユウナの気持ち。わからぬサクが真剣な顔を向けてくるほどに、気恥ずかしいユウナは慌てて叫ぶ。


「サク!! その話は後で!! 今はやるべきことが――」




「お兄さん、お兄さん、大変だよ!!」



 ユウナの声に上書きするように、良く通るテオンの切羽詰まったような声が、水壁の内側に響いてきた。


「なんで、イルヒとテオンの声は届くのに、あたしの声は砦にいる皆に伝わらなかったのかしら?」


 そんな呟きを知らずに、サクは声を張り上げる。


「どうした!?」

「ゲイが船に戻ったら、沢山船が動いて……っ、皆がそこから逃げられないように塞ぎに掛かっている」

「……っ!!」


 サクは子供達を身体から離し、水の壁から頭を出して外界を見渡した。


 円陣を組んで並んでいた、ゲイの力の反射から無事だった船が、壁のように横に一直線に並ぼうとしている。

 船が餓鬼を落とすのなら、水の壁の外側は濃厚な邪気に覆われ、いくら玄武の力を保有するサクと、玄武自身がいるとはいえ、苦戦は間違いなかった。

 ここは早急に、魔を乗せた船を破壊した方が得策に思えた。ゲイが攻撃を諦めたとは到底思えない。意図的に戻り、船を動かしたのだとすれば、また次の攻撃がくるということ。
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