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吼える月
第27章 再来
その少し前――。
テオンは上空から、一艘の小さな船が、砲筒を備える何周りも大きな船に近づいていたのを見ていた。
それは砦の裏側、ヒソクが乗っていると思われる大きな船の傍にあった船で、それは逃亡用だと思っていたテオンは、餓鬼が囲む海でなにも出来やしないだろうと、あえてサクに知らせなかった。
その船から飛び出た"なにか"が素早く動き、あっと言う間に水の壁に接触した…ような気がした。だが、餓鬼が流れる船をそう簡単には走り抜けまいと、気のせいだと思おうとしたが、次の瞬間、"それ"はユウナを抱えたように見えて、確信する。
あれは人間で、ユウナを拉致するために現れたのだと。
「お兄さん、お兄さん――っ!! お姉さんが連れ去られた――っ!!」
テオンの声の直前、イタチの意識がなくなったのを感じて、びくりと身体を震わせていたサクは、船上で餓鬼を斬り続けながら、顔色を変える。
それを合図というように、縮小して強固になったはずの水の壁は強さを失い、嘲笑うように再び金色の光が視界の端に見えた。
「くそっ!! イタ公になにかあった!! なぜだ、あいつは元気になっていたはずなのに!! 神獣が意識吹き飛ばすってなんだよ!!」
サクは、水の壁に掌を向けて大量の力を注いで補強しながら、左手で餓鬼の首を刎ねる。
「この状況で、なんで姫様が連れ攫われる。テオン、どんな奴だ!!」
「早すぎてわからないけど、長身だった。お姉さん担げるのは、多分男だと思う!!」
「サク、ユウナの元へ行け!! 俺がこの結界を強める」
「だがシバ!! お前1人では……」
「やらなきゃならないだろうが!! オレもひとり、お前もひとり!! だったらお前がユウナを助けに行け、ユウナの武神将だろうが!!」
だが力を水の壁に注ぐには、初心者であれば集中しないといけないことはサクでもわかっている。この餓鬼の溢れる最中、集中など難しい。
「お兄さん、餓鬼ってなにが好き!?」
唐突にテオンが聞いてきた。