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吼える月
第27章 再来
「今、そんなこと……」
「やっぱり、美味しそうなお肉かな⁉︎」
「そ、そりゃ常時腹空かせているから、肉は大好物だろう」
「了解、お兄さん!!」
同時に上空から力が膨れあがるのを感じて、サクとシバが空を見上げる。
空から、この場を仕切るテオンの強い語調の声が聞こえた。
「お前達警備兵は、子供達を連れて飛べ」
「御意」
警備兵が下降する。
「お兄さんっ、僕が幻覚で餓鬼の気をそらす。シバはお兄さんに代わって水の壁の力の補充を!! お兄さんは早くお姉さんを追いかけて!!」
頼もしい指揮官に、サクは苛立った顔を少し和らげた。
「あの船はヒソクの船のところにつけてあった船だ!! 離れていこうとしてるから、お兄さん早く!! ここにワシが待機している。だから早くこれに乗って!! ワシ、お兄さんを頼む」
ぴぇぇぇぇぇぇ。
サクに向かって熊鷹が急降下してくる。
「ああ、姫様を救いに行ってくる!! それまで持ちこたえてくれ」
熊鷹の背に飛び乗り、サクはユウナの後を追う。
船の上で、シバが青龍の力を解放し、餓鬼を寄せ付けぬよう水壁を強固にすれば、海上で積み重なるような餓鬼達が、奇声を上げて消えて行く。
だが全てを消し去るには、力が足りないことを、シバ自身自覚していた。その上で、餓鬼を弾くのは、かなり心身共に消耗する。
もうひとり、共に闘ってくれる相手が欲しいと、切実に思った。
そしてテオンは――。
「忌まわしい力だと思った。だけど、餓鬼の原型が人間で、目に映るものを食べようとするのなら、幻覚を見せられる僕だって餓鬼を抑えられる!!」
その幻覚の力が、餓鬼をゲイがいるはずの船に向かわせた。
テオンの力が波動状に拡がると、取り込まれた…餓鬼やシバ、そして子供達と、海に居る者すべてが、ゲイが乗る船が、蒼陵では手に入らない高級食品…、美味しそうな大量の骨付き肉になっている幻覚を見たのだった。
そんなものが突然海に現れるなど、本来ありえない。それに騙されるのは、思考力を持たずに本能だけて生きる餓鬼達のみ。
不可解なご馳走肉の出現に心奪われた餓鬼達は、歓喜の奇声をあげた。子供達やシバへの興味を失い、それ以上に美味しそうな骨付き肉を食べようと、一心不乱に泳ぎ始める。