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吼える月
第27章 再来
テオンがなにかの力を持っていることは薄々勘づいていたシバだったが、こうして奇想天外なものが海に出現したことに、動揺を隠せない。
動揺は集中力に影響するために、シバは一度自分の頬を叩いて、気合いを入れた。
そして、子供達が鷹に乗った警備兵に連れられるまで、はぐれた餓鬼が襲わなぬように、力を注いで水壁の補強を続けていた。
そんなシバの集中を乱すもの――。
「テオン、金の光だ!! 横に動け!!」
ゲイが戻った船から放たれる金色の光。
シバの声で、テオンと鷹は、ぎりぎりのところで光線をよける。
だがその金色の光が、子供達を連れ出そうとした警備兵を鷹ごと貫き、落下しそうになった子供を、鷹で飛んでいる別の警備兵が救いあげた。
「早く、僕が囮になるから早く皆を連れ出して!!」
鷹にぶらさげられた警備兵に抱かれた子供達が空に飛び始めれば、金色の光がそちら側に向けられていくため、テオンはゲイを煽るように、船の前で旋回させて、注意を向けさせた。
また、金の光が放たれる。
「テオン、今度は反対に動け!!」
シバの元から餓鬼が居なくなったとはいえ、テオンの力が不安定ゆえに、皆無なわけではない。極端に数が減っただけだ。
餓鬼の相手をしながら、ゲイがテオンを殺さぬようにと、シバは力の放出に集中出来ない。
金色の力を青龍の力で弾こうとしても、その間に無防備になった水壁に、群れにはぐれた餓鬼達が襲う可能性が否めぬなら、それも安易に出来ない。
あと少しで、子供達は空に移動できる。そのための場つなぎ、ここはなんとしても、子供達を守らねばならない。
「ひとが足りない。せめてテオンを補佐してくれるものが! イタチっ、起きろ!!」
シバの叫びに、空に飛び出したイルヒが泣きながら応えた。イルヒの両手にはくったりとしたイタチが抱えられている。
「動かないんだよ、イタチちゃん!!」
舌打ちしたシバが、吐き捨てる。
「イルヒ、イタチを叩き起こせっ!!」
「叩いても起きないんだ、身体は温かいのに!!」
「残っているのは、あと何人だ!!」
「あと……十人ほど。動かない兄貴もまだいる!」
走る金の光。
「テオン、光が曲がる!! そっちゃじゃない、反対へ……テオン――!?」