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吼える月
第27章 再来
シバは呆然としながら、金色の光を押し返す凄絶な青い光を見ていた。
それは自分と同種の力ながら、圧倒的な質量と速度を持つことに驚いたからではない。
「シバ、無事か!?」
今まで、なんの接点もない男が、自分の名前を初めて呼んだのだから。
ドクリと心臓が乱れ、過去の錯綜した感情がシバの中で渦巻く。
――シバ…。よくお聞き。あなたの名前は、お父様がつけてくれたの。昔昔、私達の先祖にそれは立派な方がいて、その名前にして下さったのよ。
シバは、幼い頃の記憶を揺さぶられた。
海辺近く……切り立った崖に囲まれた、一見洞窟のような小さな集落で共同生活して育ったシバは、いつも外に出ることを禁じられて、太陽を見たことがなかった。
物心ついた時から、シバが身近に感じるのは潮騒と潮の香りだった。
その集落にいるのは、五十名あまり。
そこにいる僅かな子供達と遊んで暮らしていた。
集落の者達は、女子供は大小様々な網、男達は銛など漁具を作っており、それと引き替えに外界から、食糧など生活必需品が"配給"され、その配給主がギルだった。
ギルは若い頃から厳めしい顔つきで、子供は怖れてよく泣いていたが、ギルは物怖じしないシバを可愛がってくれ、シバはギルに…顔を知らぬ父への慕情を重ねて懐いてはいたが、ギルはその素性を明かすことはなく、シバも知らぬ外の世界のことを語られてもわからないため、気にすることはなかった。
ギルが何者かだけではなく、なんで自分達はこんなところで住まねばならないのか、なにひとつシバにはわからなかったが、その疑問を口にすることもだめだと、母――ソンファに言われて育っていた。